長村(以下O)「ようこそ、フレンチシェフ!」

古賀(以下K)「シェフじゃなくて料理人っす!」

料理人
古賀真人(Koga Masato)

フレンチの世界

O「料理人?シェフとは違うの?」

K「『シェフ』っていうのは現場をまとめる責任者って意味なんですよぉ。」

O「知らなかった!」

K「もうちょっと話すとシェフの下に『スーシェフ』ってのがいて。」

O「何語なの?」

K「フランス料理の現場で使われてるよー。更にその下に『シェフドパルティ』っていう部門責任者がいてですねぇ。」

O「スーシェフよりシェフドパルティの方が響きはカッコいい!(笑)」

K「これは肉だったら『肉』魚だったら『魚』みたいな部門ごとの責任者。パルティって『出発する』っていう意味なんだよ。その人が出していいって言ったらまず出せる。最終的にはシェフが決めるんだけど。」

O「まずはその人が第一関門か!(笑)」

K「そうね。(笑)その中にいる僕たち料理人は総じて『キュイジニエ』っていう呼ばれ方をしてる。お菓子作る人ってパティシエって呼ばれてるじゃん?そんな感じっす。」

フランスでお世話になったレストランの前での一枚

職業体験 恐怖体験

O「本場フランスに勉強しに行ってたんだよね!」

K「20歳の時に。料理の専門学校に2年間通ったんだけど、そこの提携先がフランスにあって。」

O「そもそもどうして料理の道に?」

K「その理由もそもそもクサイんですけどぉ。」

O「そういうの好き(笑)」

K「ほんとですかぁ?その前から話しちゃうんだけど、小学生の時に獣医師のドラマやってて。それ観てかっこいいって思って獣医師になりたかったのね。」

O「なんのドラマだろう、後で調べてみよう。」

K「それで中2の時に職場体験があったんだけど、たまたま動物病院の受け入れ先がありまして!俺は絶対そこに行きたいと思って、理由とかキチンと書いて出したら通った訳ね。」

O「やったじゃん!」

K「それでまあ行く訳なんだけど、全部で5日間あったの。で、3日目くらいにオスのチワワの去勢手術があって『みんなー!手術室集まってー!』って気軽な感じで見学することになって。」

O「うちの犬も手術したなあ。」

K「それで小型犬って麻酔が効きにくいみたいでね。半分効いてない状態で手術が始まったの。それでもうずっとキャンキャン鳴き続けて、それを1時間くらい見てたんだけどもう耐えられなくなっちゃって。」

O「げっ。」

K「それでお医者さんが『来週はラブラドールの去勢手術があるからまた来なよ!』って言ってもらえたんだけど、『いやもうちょっと、、』ってなって(笑)」

O「え、これなんの話?」

自分が皆の居場所になりたい

K「学校ではやっぱり『将来どうしますかー?』みたいな時間が続くのね。」

O「恐怖体験の後にはとてもじゃないけど考えられないよなあ(笑)」

K「そう(笑)獣医師は諦めたんだけど『なんかやって世に名前残したいなぁ。』みたいなのがあったのね。目立ちたがり屋だったし。それでアナウンサーいいなって本気で思ってた時期もあったんだけど。めざましテレビ好きだったからさ。」

O「(爆笑)」

K「で、中3の進路決めの時間に仲良いメンバーで喋ってたんだけど『俺夢なんもねえじゃん!』って思ったの。」

O「あれ、アナウンサーは?」

K「だって現実的じゃないじゃん!(笑)」

O「2個前の会話からそう思ってたよ!(笑)」

K「皆は結構大きい夢とか語ってたんだけど俺はすごい劣等感みたいなの感じてた。」

O「うん。」

K「そんな時に、なんもない俺だけど『ここに居場所はある』って思ったのね。友達とか、クラスとか部活とか。んでふと、『俺が居場所になりたい』『誰かの居場所になりたい』って思って。」

O「おお。」

K「じゃ『店開けばいいじゃん!』みたいな。居酒屋とか大人達がワイワイやってて楽しそうだし(笑)確か卒業アルバムにもそんなこと書いたような気がするなぁ。」

O「居酒屋いいね。」

K「そんで高校生活も普通に楽しくやってたんだけど。あっという間に『さぁ!大学行きますか!就職しますか!』みたいな時期になって。」

O「先生たちも大変だよね(笑)」

K「その時に色んな大学とか専門学校が一度に集まってそれぞれの話聞ける説明会みたいなのがやってたのね。いくつか話を聞いてたんだけど、俺が通うことになる専門学校の理念がいいなって思って。それでそこにした。」

O「どんな理念なの?」

K「「本物になる為には本物を知らないといけない』みたいな感じだったかな。」

O「本物!」

K「未だに本物ってなに?ってすごく思うけど。」

O「なんだろうね。」

K「今俺はたまたま料理の世界にいるけど、ずっとそれを自分に問い続けながら仕事していかなきゃなと思う。」

O「問うけどわからない。分からなくなって忘れちゃう!の繰り返し(笑)」

K「これって答えがないじゃん。だからずっと追い続けないとね。あ、ちょっと話変わるけどいい?」

O「もちろん!」

先ほどのツノからこれができるそうです。

完璧ってなに?

K「大阪に史上最短で三つ星を獲った人がいるんだけど。」

O「年齢的に?」

K「店を開いてから!で、すごいのは、いや、もう伝説っていうか、いやあのねえ」

O「凄さはその震えから既に伝わってきている!(笑)」

K「ほんとすごいんだよ!大阪版のミシュランが初めて出た年にそのお店が初めて載って初めて三つ星になったの。」

O「ん?どういうことだ?」

K「三つ星になった店もすごいんだけど、その店を三つ星にしようとした審査員もすごいんだよ。ミシュランの威厳があるから変な店は三つ星にできないし。」

O「なるほど。」

K「そこのシェフが米田肇さんっていうんだけど、面白い話があって。」

O「なになに?」

K「フランスのオーブラックっていう地方に『ミシェルブラス』っていう三つ星のレストランがあるんだけど、そこの支店が日本にしかなくて。北海道の洞爺にあるんだけど、若き肇さんがフランスの修行から帰国した時にミシェルブラスの求人があってそこに入るわけよ。」

O「20代前半とか?」

K「いや、もうちょっと遅かったんじゃないかな。何でも突き詰めるような人で、その前はエンジニアだったらしいの。」

O「そこから料理の世界に?詳しく知りたくなって来た!」

K「で、年に一回くらいかな。ミシェルブラスさんが日本に来てそこで料理をするイベントみたいなのがあるんだけど。肇さんはその時肉の部門シェフやってて、鳩の肉をデクパージュしてたのね。」

O「デクパージュ?」

K「肉を切り分けるっていうか、なんていうか。調べてみて!」

O「おっけい。見てみるね。」

K「そんな時に後ろでミシェルブラスさんが険しい顔をしてたんだって。肇さんは何かあるのかなって思って見てたら『ちょっと変わってみせてって。』『まず包丁、よく切れるね。』で、『鳩の火入れ、適切な火入れだね。』それでなんだろうってミシェルさんのこと見てたら、肉を切るんじゃなくて剥がれるように落ちたんだって。俺はそれができなかったと。」

O「なんかその空気すごそうだ。」

K「そのパーティーみたいなのが数日あったみたいなんだけど、最終日に肇さんはできるようになったんだって!それでミシェルブラスさんの顔を見たら満足気で。肇さんは後々呼ばれてミシェルさんに
『はじめ、この世に完璧なものなんてないんだよ。ただ完璧を求める姿勢だけがあるんだよ。』っていう言葉を残したんだって。」

O「か、かっこよすぎる。」

K「それを知った時にさ『完璧』『本物』『一流』とかって求めるなら一生続くものなんだって思った。『完璧』って定義付けられるものがないんだよねきっと。」

O「燃えて来た。真人、俺燃えて来たよ。」

K「続きは『三つ星レストランの作り方』参照(笑)」

ミシェルブラスさんの息子
セバスチャンブラスさんとの一枚

挑戦と挫折

O「フランスでの真人はどうだったの?」

K「楽しかったですよぉ。最初は向こうで日本人だらけの学校に通って少し勉強するんだけど。で、料理の現場出るってなった時に『三つ星でも二つ星でも星の数なんてどうでもいいから、日本人のいない店にしてくれ』って希望出したら通ったの。」

O「すごい挑戦。」

K「だってせっかくフランスいるのに日本人と関わってもしょーがないじゃん。」

O「大事だね。」

K「それで仕事が始まるんだけど、これはもう命がけなの。決して大袈裟なことじゃなくて何かを聞き逃したら終わりなわけよ。身寄りもいないし、一個一個テキトーにやれないし。死ぬって思った。(笑)」

O「でもぶっちゃけ楽にやろうと思えばできちゃったんだよね。日本人のいる店に行けば技術面で確かなものは見ることができたんだろうし。」

K「向こうにも日本人が多くて、大きいところ行くといるんだよ。でもせっかくフランスに行ったのにさぁ、日本戻った時に『俺三つ星で働いて来ました』って言っても教わったのが日本の人だったら『日本人に教わってんじゃん!』『日本と何も変わらんじゃん!』ってそれは嫌だった。フランスいるんだったら、フランスの人に教わりたかった。」

O「そんな経験して日本に戻ってからは?」

(この後、古賀くんは4年に渡ってとっても大変な時期を過ごします。沢山話してくれましたが本人の名誉の為、割愛させて頂きます。)

フランスでお世話になったレストランの皆さんとの一枚。

オリンピックがやってくる

O「そうして時間が飛ぶけど、東京に身一つで来たんだよね。」

K「いやキャリーバック持って来ましたよ!」

O「(爆笑)どんな気持ちだったの?」

K「仕事辞めてからどうしようってのがすごいあって。で、中学の同級生の健一(栗山健一)に久々に会ったんだよね。『仕事まだないの?』って。『うん、テキトーに探すけど。』みたいな。『じゃあ東京来いよ、オリンピックもあるし』って。」

O「そうだ、オリンピックもうすぐだね!」

K「うん、だけど『東京来たぜ!』って気分ではなかった。後ろめたさみたいなのもあったんですかねぇ。前の職場で色々悩んだり迷惑かけちゃったりしたから。」

O「そうだったんだね。」

K「でも東京に来てまだ少しだけど良かったですよ!オリンピックを東京で味わってから、もう一回フランスに行きたいって目標ができた。」

O「もう一回フランスに?」

K「何やるにしても絶対不安は付きまとってくる。でも人生一回きりだしね。『どうせうまく行くから!』と思ってやるしかない!」

O「(何故だろう。佐賀出身の友達みんなこれ言う。)」

まさとの料理

O「すごく覚えてるけど去年の年末に大掃除があったんだよね。俺らの周り、皆色々とお世話になってる事務所の。日頃の感謝を胸に手伝いに行ったらキッチンからすげーいい匂いがしてさ!」

K「あぁ。(笑)」

O「キッチン覗きに行ったらまだ仲良くない真人いて『あ、どうも。』とか言って(笑)」

K「そんなだったっけ?(笑)」

O「うん。『健一の地元仲間らしいよー!』って感じで。そっからたっぷり大掃除してピカピカに!そしたらそこの事務所のボスが『今日はありがとう!打ち上げしましょう!真人くんの料理もあります!』って。」

K「何品か作ったね。」

O「俺はあれが忘れられないよ。一個ずつどんな料理か真人の説明付きで(笑)東京に来て食べたご飯の中で一番美味しかったんだよ。」

K「すみません、ありがとうございます。」

O「ちょっと泣いてたよね(笑)皆もうまいうまい!って健一と肩組んで『良かったなあ』って言われててさ。その前を知らなかったから『どんな友情?』って思ったけど(笑)」

K「あんま言わないで下さい!(笑)」

O「本当に最高だったんだよ。また食べたいな。」

大掃除のあとの一枚。

古賀真人 1993/4/26(26) 佐賀県出身